三日ほど、何事もなく過ぎていった。
賊は、時折、思い出したように襲ってくるものの、
比較的、穏やかな時間を過ごしていた。
「静かですね。」
「あぁ。」
別荘は十分な広さだったが、さすがにずっと建物の中にいると
手持ち無沙汰になるので、朝晩、二人で建物の周りを散歩するようになった。
よく手入れされた庭では、昼間は、小鳥たちがさえずり、
夜には、風がよく通り、星が綺麗に見えた。
まだ、涼しい夏の明け方、薄紫色のテッセンと白いムクゲが揺れている。
「キレイですね。」
「あぁ。」
「退屈ですか?」
「いや。」
後ろから付いてくるゾロは、必要以上に
近づこうとしない。
たしぎは、ゾロの態度に、首をかしげる。
ふと、ゾロが、何か気づき、しゃがみこんだ。
「どうしました?」
「ん、この辺り、誰か歩き回ったな。」
言われてみれば、足元の雑草が踏み倒され、何者かが動き回った形跡があった。
「ほんとだ、気付かなかった・・・」
「昼間は、なんともなかったか?」
「ええ、特に変わったことは何も。」
「ふん・・・」
ゾロが顎に手をあてる。
奴ら、何たくらんでやがる。
「も、もしかしてっ!」
急にたしぎが大声を上げる。
「なんだ?」
「本人かどうか、怪しまれてるんじゃないでしょうか?」
「は?」
「もっと、新婚らしくしなきゃ、いけないんじゃないでしょうかっ!」
「はあぁっ?」
握り拳で力説するたしぎは、とても冗談を言ってるようには見えず、
ゾロはそれ以上何も言えなかった。
「なんだ?じゃあ、一緒にベッドに入ればいいのか?」
「いえっ、そこまでは!」
たしぎが真っ赤になりながら首を激しく振る。
どうしろって言うんだよ!
ゾロは、腕を組みながら屋敷へ戻った。
*******
「じゃあ、オレはここで寝ればいいんだな。」
「はい。」
ゾロはソファにどかりと身体を投げ出した。
「あとは、私がそれらしく振る舞いますから。
ロロノアは、気にせず、眠って下さい。」
たしぎが、任せて下さいと言わんばかりに笑いかける。
お前の作戦が効果あるとは全く思えないがな。
ふんっと目を閉じた。
たしぎが言うには、昼間、建物の中の様子を見られれば
二人が一緒に居ないのは、不審がられてしまう。
だから、リビングで寝てもらい、一緒に過ごしているように見せかけるのだと。
たしぎは掃除や洗濯で動き回っていた。
うつらうつらしているゾロの耳に、たしぎの声が聞こえてくる。
「・・・でね。・・・・なんですよ。」
なんだ、あいつ、一人で喋ってやがる。
ゾロは目を閉じながらも、たしぎの気配を感じていた。
時折、近くに寄ってきては、傍にいるのが分かる。
最初は、せわしく、うっとおしかったが、
いつしか、傍にいるのが心地よく、包まれているように感じていた。
悪くねぇ。
手を伸ばせば触れられそうな気配。
ふと、指先にあたるぬくもり。
じんわりと手があったかい。
目を開けて、確かめることも出来たが、そのままその感覚に浸っていた。
「ロロノア、夕食ですよ。」
たしぎの声で、目が覚めた。
「あぁ。」
ゆっくりと身体を起すと、たしぎの顔が、今朝よりも、柔らかく見えた。
「あの。」
寝室に向かうたしぎが声を掛けてきた。
「どうした?」
「・・・・」
言いにくそうだ。
「なんだ?新婚大作戦だから、ベッドの傍にいろってか?」
「えっと、その・・・少しの間で、いいですから・・・そばに・・・はい。」
ごにょごにょ言いながら、結局は頷いた。
はぁ?
「ったく、しょうがねぇな。」
ぶつぶつ言いながらも、ゾロは一緒に寝室に入る。
枕元に腰をかけると、後からたしぎがゆっくりベッドに乗る。
何も言わないまま、毛布に頭からくるまると、コロンと横になった。
なんだ?
ちょうど、上から見下ろすような位置で、ゾロは眉をひそめる。
警戒してんのか?
まぁ、初日にひでぇ事言ったしな。
ふん、と腕を組もうとした矢先、指先にあたる暖かい感触。
たしぎの手が、毛布から出て、ゾロの手に触れていた。
ゆっくりと、ゾロの指を絡める。
「なんだ?これも、作戦のうちなのか?」
毛布をかぶったまま、たしぎが小さく頷いたのが分かった。
ふっと軽く笑いながら、それ以上何も言わずに、ゾロは暫くそのままにしておいた。
夜半過ぎ、安心しきって寝息をたてているたしぎを
ゾロは腕組みしながら、見下ろしていた。
こいつは・・・
何を考えてるのか、全くわかんねぇ。
無防備すぎる・・・襲っちまうぞ。
これも、作戦なんだろとか言って・・・
〈続〉